不妊治療を知る-「閉経まで望める」と誤解
30代後半妊娠率下降、卵子老化、学ぶ機会少なく
「そんなこと言っている場合じゃない」。男女の産み分けについて尋ねた東京都目黒区の主婦(43)は、医師の言葉に驚いた。結婚を控えていた約2年前、婦人科系疾患がないかを確認するため、診察を受けた時のことだ。結婚したら子供がほしいと思っていた主婦は、軽い気持ちで質問した。だが、医師は主婦の年齢から「出産できる時間は限られている」と説明した。
結婚から半年後の09年夏、主婦は自然妊娠したが、秋に死産した。胎児の染色体異常が原因だった。体調が戻った昨年4月、不妊治療クリニックで本格的な治療を受け始めた。
クリニックでは「外見が若い人でも、子宮や卵巣は年相応に老化する」と知らされた。体外受精をするために計4回採卵を試みたが、うち2回は卵子の採取さえできなかった。
昨年10月、主婦が最後の機会と思って臨んだ3回目の体外受精が失敗。「老後は二人で支え合おう。見取ってくれる人がいないから一緒に死にたいね」という主婦の言葉に、夫(45)は涙を浮かべた。
日本産科婦人科学会の調査によると、08年に不妊治療を受けた患者は30代後半がピークで、妊娠数は35歳を境に減少。出産率は32歳からゆるやかに下り始め、流産率は反比例して上がっていく。卵子の老化に伴い、染色体異常が起きやすいためとされている。
主婦は通っていた女子高の保育の授業で子育ての魅力を知った。だが「高齢になると妊娠が難しくなることは教わらなかった」。国の学習指導要領には、小中高校で妊娠しやすい年齢や不妊治療について教える規定はない。文部科学省は「早く産んだ方がいいというメッセージになりかねず、不妊についてどのように教えるかは難しい」(学校健康教育課)という。
主婦は「高齢での出産は難しいだろうと思っていても、40代で出産したタレントなどのニュースを見ると、自分も大丈夫だと錯覚してしまう」と話す。
不妊治療歴4年の奈良県の主婦(37)は治療を受けながら、自分でも不妊について調べ、30代後半になると妊娠率が下がることを知った。「治療を始める前は、閉経まで赤ちゃんを望めると思っていた。治療を受けたことがない人が、誤解や偏見を持つのは仕方がないと思う」 |